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山田正彦と伊藤元重のTPPを巡る討論

山田正彦と伊藤元重のTPPを巡る討論

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(日本経済新聞11/10/30から引用)(中略)「TPP交渉への早期参加を求める国民会議」代表世話人の伊藤元重・東大教授と、「TPPを慎重に考える会」会長の山田正彦前農相が交渉参加の是非について意見を交わした。
伊藤:(TPPに)参加すべきだ。日本はバブル崩壊後、世界の貿易自由化の動きに完全に出遅れてしまった。TPPに参加できなければ、ほかの貿易自由化交渉も難しくなるだろう。
参加するかどうかは、10年後、20年後の日本のあり方を決めることになる。
(中略)伊藤:右肩上がりで経済成長し、常に成長分野があったことを前提にした日本の既存制度は曲がり角にきている。市場を開く、という視点が必要だ。
(中略)山田:日本の工業品や農産物の関税はすでに低く、TPP交渉を主導する米国は日本に対して関税引き下げより、金融や保険、医療などの市場参入を狙っている。
とくに公的保険の対象外の医療を受けやすくする混合診療を強く求めている。公的な皆保険精度を崩壊させ、米保険会社の民間医療保険を広げる突破口にしたいと思っている。
(中略)伊藤:米国の医療制度は世界のなかでも非常に特殊で、米国自身が今の医療制度をよいと思っていない。世界に広がるはずがない。
(中略)山田:TPPに参加して日本の国内総生産(GDP)は伸びるのか。伊藤:おそらく伸びるだろう。日本も戦後、貿易自由化を進めたから成長した。
(中略)山田:10年以内に関税をすべて撤廃すると、現在7兆円の農業生産は3兆円に減る。約4割の食料自給率も14%まで低下する。
(中略)伊藤:高い関税で輸入を制限し、国産品を守るという政策は短期的には現状を維持する効果はあるが、長い目でみるとうまくいっていない。
農業を守るなら、関税という目に見えない消費者負担ではなく「これは日本にとって重要だからやる」といって正々堂々と税金で補助金を出せばいい。
(中略)山田:食料安全保障は防衛と同じくらい重要な問題だ。自給率は少なくとも50パーセントを維持しなければならない。
(中略)伊藤:国内での生産強化は極めて重要だが、同時に常に海外とのパイプを作っていくことも大切だ。例えば石油の安全保障を考えるときに、石油を輸入制限して日本の油田を懸命に掘るなんてことは考えられない。
(中略)山田:TPPに参加すれば農産物の輸出が増えるなどあり得ない。
(中略)伊藤:アジアの成長力は高い。TPPをきっかけに貿易自由化が進めば日本の農産物の輸出は増える。
(中略)山田:日本の製造業はすでに海外で生産しているし、輸出の場合でも工業品の関税はそれほど高くない。

TPPの交渉に参加するか、重要な局面を迎えています。野田佳彦総理は参加を表明する意向です。

TPPは関税を原則0にするだけでなく、農業や金融などさまざまな分野に影響を及ぼしますから、メリットとデメリットの見極めがとても難しいです。

ところでこの対談に参加している山田正彦氏は異色の経歴ですね。弁護士に加えて、牧場や食肉販売店も運営されてきたそうです。

山田さんは断固TPPに反対で、野党にも共闘を呼びかけていますし、いざとなれば民主党を出ていく覚悟だそうです。

私は今のところ、TPPに参加すべきだと考えています。日本は貿易立国ですから、このままTPPやFTAに消極的でいたら、積極的な韓国や、人件費の安さなどを強みにするアジアの新興国に負けてしまうからです。

韓国でもイ・ミョンバク大統領が、国内の反対を押し切ってアメリカとのFTAを妥結しました。自動車や家電製品など、日本はこのままではどんどん隣国に押されてしまいそうです。

一方で、農業などへのダメージも大きいのではないかと懸念されています。山田さんが情報を開示せよとおっしゃっているのはその通りです。

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経済成長

TPPに参加する最大のメリットは、やはり日本経済の経済成長を促すということです。一方で、「もう経済成長はしなくてもよいじゃないか」という意見もあります。

私も以前は、そんなに頑張らなくてもほどほど経済をやっていけばいいじゃないかと思ったこともあります。例えば京セラ創業者の稲盛和夫氏は、経済成長イコール幸福ではないとおっしゃっています。

最近では浜矩子さんもそうおっしゃっています。森永卓郎さんも、これからはイタリアのようにのんびり暮らせばよいのではとおっしゃっています。

こういった意見にはうなずけるところもあります。ただ、やはり日本は経済成長を続けて行かないとまずいと思います。

まず、伊藤さんがおっしゃっているように、持続的な経済成長ができた時代はもう終わりました。これからは少子高齢化によって労働人口がどんどん減っていきます。

一方で中国やベトナムなどの周辺国は豊かさを求めてどんどん経済発展しています。つまり、このままではどんどん他国に追いぬかれ、経済が衰退していきます。

すると、現在の物質的な豊かさを日本は維持できないことになります。食べたいものが食べられず、海外旅行にも行けず、最新のスマホが買えなくなる生活を、豊かさに慣れた多くの人が受け入れられるとは思えません。


財政問題

それより問題だと思うのは、巨額の国の借金です。つまり財政問題です。今は国内で赤字国債のほとんどを消化できていますが、これからは無理です。

そして、毎年10兆円もの国債利払い費を払い続け、おまけに発行済みの国債を償還しなければいけません。そのためには、なるべく税収を確保しないといけないのです。

そして、税収を確保するためには、経済が発展し続けないと不可能です。経済が衰退すれば、税収も減るからです。

もし国債の償還や利払いができなくなれば、デフォルト(債務不履行)です。「ほとんどを日本人が持っているんだから、国債がデフォルトになってもいいじゃないか」というわけにはいきません。

なぜなら、国債保有者のほとんどが、日本の銀行、信用金庫、保険会社などだからです。もしデフォルトになったら、私たちの預貯金や保険が吹っ飛ぶのです。

おまけに金融システムも破綻し、経済もめちゃめちゃになります。円、株価、債券のトリプル安が起きますし、不動産価格も暴落するでしょう。

他にもいろいろと困ったことになるのですが、とにかく財政破綻はいけません。まさに国家破綻につながります。

これだけ悪化してしまった財政を立て直すには、歳出削減も必要ですが、増税による税収確保が必要なのです。そのためには、経済成長も不可欠というわけです。

というわけで、私は経済成長しなくてよいとは考えません。経済成長のためには、TPP参加によって他国と互角の立場で競争しないといけないと思うのです。


デメリットを考える

山田さんは日本の工業品や農産物の関税はすでに低いとおっしゃっていますが、これはどうなんでしょうか。少なくともコメや小麦の関税はかなり高いですね。

それなのに、パンやラーメンなどに欠かせない小麦の国内生産量は非常に低いはずです。小麦は日本で作るのが難しいんでしょうか?

外国産の小麦が入ってくるのは高関税で防ぎつつ、国内で小麦をつくろうというならわかりますが、ほとんどを輸入に頼りつつ関税が高いのでは、消費者に利益はありませんね。

というわけで、少なくとも小麦に関して言えば、日本の消費者には恩恵があります。

医療などへの影響は考えないといけない問題です。混合診療解禁などは交渉のテーマに入っていませんでしたが、今後要望される可能性があるそうです。

混合診療を禁止することの合憲性については最近も裁判で合憲と判断されました。私は混合診療について詳しくないので何ともいえませんが、禁止されていると先進医療を受けにくくなるなどの問題があるようです。

一方で、混合診療を解禁すると、効果のない治療法が蔓延するなどの懸念もあるようです。うーん、難しい。もうちょっと勉強してみます。

国民皆保険制度が崩壊するのではないかという懸念も出されていますが、これについては政府は皆保険を維持するとしています。

オバマ大統領もアメリカについに国民皆保険を導入しましたし、TPPはアメリカ以外の国も参加しますから、大丈夫ではないかと思うのですが。

そもそも日本の国民皆保険制度自体が、財政悪化しています。ここにも財政問題が絡んできます。


農業への影響

一番心配されているのが農業への影響です。伊藤さんがおっしゃっている関税は目に見えない消費者負担というのは、関税がなければ安い外国産の農産物を買えるのに、関税分が価格に上乗せされているからです。

私も、TPP参加は別にしても日本の農業を大規模化するなどして、競争力のあるものにしないと、このままではどんどん農業は衰退していってしまう気がします。

食料自給率については、確かに日本は低すぎます。先進国は100%を超えているところも珍しくありません。

私も食糧危機などに備えて、自給率は高くしたほうがよいと思っていました。ただ、いろんな国と貿易していれば、食料が手に入りにくくなったときのリスクヘッジになるでしょう。

それに、TPPに参加して中小企業でも輸出がしやすくなれば、高品質の農産物をつくっている日本の農家にとってチャンスにもなります。日本のおいしいお米で、おいしい焼きおにぎりの冷凍食品などをつくれば、アメリカやオーストラリアの人が買ってくれるかもしれません。

私としては、農地の集約などを進めてコストを減らし、国際競争力のある農業に転換して、TPPによってダメージを受けてしまう農家には必要な補助をするのがよいのではないかと思います。


製造業

山田さんは輸出の際の工業品の関税はそれほど高くないとおっしゃっていますが、例えばベトナムに二輪車を輸出すると、90%の関税が必要だそうです。

これではなかなか価格で太刀打ちできないでしょう。その一方でTPP参加国がベトナムで安い価格で二輪車を販売すれば、日本は負けてしまいます。

それに、TPPよりも円高のほうが製造業にとって問題だとしても、それでは円高を是正できるかということになります。政府日銀もあと7兆円規模の為替介入を3回するだけの資金しかありません。

そうでなくても、日本は法人税が先進国中トップの高さです。これだけ税金をとって、一方で円高は是正できず、厳しい国際競争に勝ってくださいというのは無理というものです。

せめて関税の格差をなくして、平等な立場で競争できるようにしないといけないのではないでしょうか。

この記事によると、日本の開国度合いを示すFTA比率は17.6%と非常に低いです。韓国は36.2%、中国も22%です。

それに、中国、米国、EU、台湾とはFTAやEPAの交渉すら始まっていないとあります。これでは、貿易立国なのに内向きと言われてもしかたありません。

前述のように、日本が経済大国として存在し続けるためには、企業に厳しい国際競争を勝ち抜いてもらわないといけません。そのためには、TPPに参加したり、法人税率を引き下げるなどを行わないと、日本企業には酷だと思います。

その一方で、TPPによる弊害は大規模化を進めたり国際競争力を高めようとする農家への補助金を出したりすることでなるべく少なくしていくしかないと思います。

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