ライツ・イシューによる増資がしやすくなる
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(日本経済新聞11/1/10から引用)
金融庁は、企業が既存の株主に新株を購入する権利を渡す新型の増資手法の規制を大幅に緩和する方針を固めた。すべての株主への情報開示書類の送付を企業に義務付けたルールを改め、インターネット上での開示で済むようにする。
(中略)規制緩和の対象となるのは、既存株主に時価よりも低い価格で株式を買う権利(新株予約権)を無償で割り当てる「ライツ・イシュー」と呼ばれる手法。
日本では時価を基準に市場から資金が調達できる公募増資が主流だが、株式数の増加で1株当たり利益が減るほか、出資持分も低下し、株主は二重にリスクを抱えている。
ライツ・イシューは1株当たり利益は減るが、株式の購入に応じれば、株主は出資持分の低下を避けられる。
株主が保有株を増やしたくない場合や、購入資金が手当できないケースは予約権を売却して損失を穴埋めすることが可能だ。
株主が手放した予約権を証券会社が買い取り、他の投資家に販売することで、企業は計画通りの規模で資金を調達できる。
(中略)いまの日本の制度でもライツ・イシューを使えるが、実施例は昨年5月のタカラレーベンによる1件のみ。増資にあたって企業が開示を義務付けられる目論見書を、すべての株主に配布する必要があるなど、事務手続きの負担が重いためだ。
金融庁はこうした実情を踏まえ、目論見書を送付する代わりに、同庁の電子開示システムに届出書を登録し、閲覧できるインターネットのアドレスを新聞で告知する仕組みに改める。
(中略)また、株主が予約権を売却しやすくする措置も講じる。具体的には、証券会社が発行済株式の5%超を取得する契約を結ぶ際に義務付けられている大量保有報告書の提出や、3分の1超を保有する場合に必要となる公開買付け(TOB)手続きを省けるようにする。
金融庁は、今度の通常国会に金融商品取引法の改正案を提出し、早ければ12年から適用する。
(中略)外国人投資家のつなぎ留めといった形で相場を下支えする効果も見込めそうだ。
(中略)「なぜライツ・イシューを使わないのか」(中略)昨年夏以降に相次いだ日本企業の大規模な公募増資に対しては、増資企業の既存株主だった海外の機関投資家からはこうした批判が相次いでいた。
(中略)株主保護の観点で、英国をはじめ欧州各国ではすでにライツ・イシューが一般的。(中略)株式市場では「ライツ・イシューを使えない日本企業は、アジア企業に比べて競争上不利」(米大手運用会社)との声も出始めている。
日本はなんでこんなに遅れているんですか、と言いたくなるような記事でした。まあでも、法改正によって改善されるのですからよしとしましょう。
これまでは、日本企業が公募増資する際には、株主にリスクがありました。公募増資とは、既存の株主に新株を割り当てずに、市場から新株を買ってくれる人を募るという方法です。
これですと、既存株主に2つのリスクがあります。第一に、株主の数が増えることで、1株当たり利益が減ってしまいます。
例えば発行済株式総数が1万の企業(すべて普通株式とします)で、100万円の利益が出れば、1株あたりの利益は100円です。そこから配当ももらえます。
しかし、増資によって株式総数が2万になれば、同じ利益を出しても1株当たりの利益は50円になってしまいます。当然、配当も減ってしまいます。
既存株主が希望すれば新株を引き受けられるなら、それだけ配当も増えますのでまだよいですが、公募増資ですとそういう訳に行きません。
すると、既存株主には不利なのです。
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第二に、出資持分が減ってしまいます。株式価値の希薄化といわれるものです。株主は株主総会での議決権や帳簿の閲覧をする権利などが出資持分によって与えられています。
私のような零細投資家にはあまり関係ないですが(笑)、大口の機関投資家ともなれば、議決権などの比率が下がってしまうことは大問題でしょう。
そこで、増資は企業の財務を強化するもので本来喜ばしいことなのですが、公募増資は既存株主に嫌がられていたわけです。
既存株主のリスク減る
そうした問題を解決するために、今回の改正が決まったわけです。これが通れば、ライツ・イシューという増資の方法が実施しやすくなるのです。
ライツ・イシューを使えば、既存の株主に新株予約権が割り当てられます。そして、株主は新株を買いたいと思えば応じます。
そうすれば、例えば1万株の株式総数の企業が(極端な例ですが)2万株に増やす場合、ある株主が100株持っていれば、もう100株引き受ければよいのです。
そうすれば、理論的には1株当たりの利益が増資前と同じになります。
また、2万株のうち200株を持っていることになるので、出資持分も100分の1をキープできます。
それでは、新株を引き受けたくないという場合はどうでしょうか。株主は証券会社に新株予約権を売却することになります。
売却によってどれほどの利益が得られるのかは私にはわからないのですが、増資による損失とその売却益とをある程度相殺できるはずです。
とてもよくできた仕組みですね。こんなによい制度なら日本でも活用されればよかったのですが、日本でライツ・イシューを採用すると、既存株主全員に書類を送らなければいけないなどの事務手続きの負担があったのですね。
最近は決算公告もインターネットで行う企業が多いのですから、こんな規制は早く撤廃すればよかったのに、と思います。
それはさておき、今回の改正が成立すれば、インターネットで公告するだけで手続きが済むようになりますから、ライツ・イシューを使う企業が格段に増えるでしょう。
株価上昇につながるかも
そうすれば、海外の機関投資家(年金基金、保険会社など)もいざ増資になったときのリスクが減りますから、今よりも日本の株式を買ってくれるはずです。
また、株主が新株予約権を行使したくない場合には、証券会社にそれを売却し、それを使って証券会社が増資をする企業から新株を引き受けます。そして市場(具体的には新たに株主になりたい人)に新株を売却することになります。
その際、大量の株式を取得するために、大量保有報告書を提出したり、TOBの手続きをとらなければならなくなるおそれがありました。
本当に、なんでこんなに余計な規制が多いのでしょうか、と腹立たしいですね。
これもあって、ライツ・イシューは実際にはほとんど使われなかったのでしょう。
今回の改正によって、このような無駄な手続きも省けるようになりました。
これでやっと、海外投資家から日本企業はなぜライツ・イシューを使わないのだ、と批判されずに済むようになりますね。
そうすれば、海外投資家がもっと日本の株式を買ってくれると思います。そうすれば株価も上がり、景気回復につながるでしょう。
なお、書き忘れましたが、これまでの公募増資では、それが発表されると株価が下がることが多かったのです。前述のリスクを既存株主が嫌って、株を売ってしまったからです。
そういうことも減るでしょうから、企業も増資をしやすくなりますね。今回の改正は遅きに失した感はありますが、歓迎します。