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伊藤隆敏氏の語る、財政再建と経済成長への方策

伊藤隆敏氏の語る、財政再建と経済成長への方策

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(読売新聞11/1/7 東大教授の伊藤隆敏氏の談話から引用)

日本は、(中略)「デフレスパイラル」に陥っていると思う。
日本銀行の金融政策の誤りが最大の原因だ。過去の手法にとらわれない金融緩和や、物価上昇率に目標を設けて政策運営する「インフレ目標」を取り入れるなどし、人々が「物価は上がっていく」と確信を持てるようにする必要がある。
(中略)国の財政再建も急務だ。歳出の半分以上を新規国債発行で賄うというのは異常事態だ。特別会計などの「埋蔵金」を使ったつぎはぎも限界に来ている。
(中略)消費税率を上げるしかない。所得税や法人税を上げるのは難しい。年金など社会保障の給付を思い切って切るなら別だが、それもできないだろう。
「消費税率を上げる必要がありますか」と聞くと、国民の5割以上が「必要がある」と答える。それなのに上げられないのは、政治の怠慢だ。
(中略)日本では今はまだ、個人や企業の貯蓄を受け入れた銀行が国債を買い、債券市場が安定している。国債の95パーセントを国内で引き受けている。
しかし、高齢化が進み個人の貯蓄は取り崩され始めた。財政赤字が今のままなら、国債の安定消化ができるのは最大であと5年ではないか。
いったん銀行が「日本国債を売りたい」と考えるようになれば、長期金利の急騰などパニックはすぐ起きる。
消費税率は当面、「経済成長がプラスであれば毎年2パーセントずつ上げ、マイナス成長になった場合は引き上げを停止する」というようなルールを作ることを提案したい。
単純計算では、財政の健全化には最終的に15~20%の引き上げが必要だ。
少子高齢化の中で成長を続けるために有効なのは、貿易の自由化だ。自由貿易協定(FTA)の締結や、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加が重要になる。
(中略)農業団体が強く反対するが、FTAやTPPは農業にもチャンスを与える。守りではなく、いかに農産物を輸出するかという攻めを考えるべきだ。
(中略)成長分野としては医療・健康も有望だ。(中略)高価格でも、質の高いサービスを提供するべきだ。アジアの富裕層らが日本に人間ドックや病気の治療のため来るようになる。
英語ができる医師を増やしたり、保険診療と、保険のきかない自由診療が併用できる「混合診療」を広く認めたりする必要がある。
電化製品でも自動車でも高級品があり、それを特定の人に売って利幅を広げ、あとは広く薄く提供している。同じようなことが農業や医療、教育などでもできるはずだ。
一方、根本的な課題は人口を増やすことだろう。(中略)対策として、安心して子育てができるよう、小児科医の不足や、保育所に入れない待機児童の問題をすぐに解消すべきだ。子ども手当より優先度が高い。
社会保障制度では、若者と高齢者世代の不公平感を和らげる。そのために、消費税で社会保障制度を支える体制にしていかなければならない。このままでは負担は今の若者や、これから生まれる子どもたちにどんどん回ってしまう。
消費税率を上げる際は、請求書などに税額の記載を義務付ける「インボイス」(税額票)方式にし、ミルクやパン、コメなどの生活必需品にはゼロ税率を採用することも検討すべきだ。
低所得者に消費税の負担分を還付する仕組みも、税と社会保障の共通番号制度とセットで導入する。消費税の負担増に国民の理解が得やすくなるだろう。

財政再建と経済成長を両立させるために何が必要かを、わかりやすく解説した記事で、読み応えがありました。


○デフレ

まず、伊藤氏の指摘されているデフレスパイラルとは、景気の冷え込みによって物価が下がり、それによって会社や個人事業主の利益が減り、従業員の賃金も下がる。それがさらに消費を冷え込ませ、物価が下がる、という悪循環のことです。

2010年10年に日本銀行も包括緩和を打ち出し、実質ゼロ金利政策の復活や一定の物価上昇が実現するまでそれを続ける「時間軸効果」の採用、また初めてETF(上場投資信託)やREIT(不動産投信)を日銀が買い入れるなどの施策を行いました。

これも、伊藤さんに言わせれば遅すぎた対応なのですが。

これらは市場に流入する円を増やし、金利を下げることで、企業などがお金を借りやすくしたり、あるいは不動産価格や投資信託の基準価額を下支えするという狙いがあります。

つまり、デフレ脱却のための政策です。

このまま物価が下がり続けるのでは、と多くの人が懸念すれば、不動産などを買う人も増えません。景気が上向かなければ企業も利益を出しづらいので、設備投資や研究開発などを控える、それがまたデフレにつながってしまうというわけです。

というわけで日銀も思い切った策をとったのですが、例えば実質ゼロ金利政策はそれだけでは大きな効果は見込めないという声もあります。経済成長を促す策も必要というわけです。

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○財政再建の必要性

次に財政再建について。景気悪化によって税収が細るなか、鳩山由紀夫内閣は43兆円もの赤字国債を新規発行しました。そして日本の財政は先進国中最悪です。先日もスタンダード・アンド・プアーズが日本国債の格付けを1段階下げました。

民主党は当初、特別会計などから埋蔵金を発掘して、子ども手当や高速道路無料化などのマニフェスト実現の財源にする、と言っていました。

しかし、現実には埋蔵金はそんなになく、新たにひねり出すのも難しいでしょう。

そして、このまま借金が増え続ければ、国債費(国債の元利払いに充てる費用)は膨張して、ますます予算を圧迫するでしょう。

近い将来、国の予算が組めなくなると指摘する学者や官僚もいます。
参考:財政悪化に備えることは必要か

そうなると、財政再建をするしかありません。そのためには消費税を上げるしかありません。


○消費税

伊藤氏のおっしゃるように、所得税や法人税を上げるのは難しいです。所得税については高所得者の負担を大きくすることが決定しましたが、取りやすいところから取る一時しのぎだと批判も多いです。私もそう思います。

所得税については、税率が十分に高いため、これ以上最高税率を上げることはできないでしょう。すると、後は所得の少ない人にも少しずつ税負担をしてもらうというくらいしか増収策はありません。

法人税については、先進国の中でトップクラスの高さなため、日本の国際競争力を削いでいるという批判がありました。そのため、5%税率を下げることになりました。

それでもシンガポールや香港などと比べると、まだまだ高いのです。

財政破綻やそれに近い事態になってしまえば、日本や円は国際的信用を失いますし、経済も国民の生活もめちゃめちゃになってしまいます。

そのためには、今手を打つしかありません。世論調査では消費税率を上げることに理解を示す国民が多いのです。

菅直人総理は10年に、消費税を上げると明言したのにすぐに撤回してしまいました。消費税を上げるといえば国民の反発を招き、選挙で負けると思ったそうです。

しかし、私は財務大臣を経験して財政再建の重要性を痛感した菅さんに期待していただけに、がっかりしました。

国民の反発を招くのは、消費税をなぜ上げなくてはいけないのか、どれくらい上げるのか、それによって国民の生活がどうなるのか、それによる弊害をどう防ぐのか、という説明がなく、唐突だったからでしょう。

その後菅総理は財政再建論者の与謝野馨氏を入閣させ、11年6月に消費税と社会保障の道筋を公表するとおっしゃっています。期待しています。


○国債は国内消化できなくなるかも

ギリシャなどの財政危機と日本とは違うという説もあります。その根拠は、日本は債務の大部分を国内で消化しているからだということです。

確かに今のところは、国債の95%を国内で消化できています。しかし、少子高齢化によって働き手が少なくなる一方、団塊の世代の退職が始まっています。

退職した方は収入が減り、貯蓄や年金で生活します。すると、貯蓄が減ります。ということは、銀行などの金融機関がこれまで多くの国債を引き受けていましたが、その原資である預金・貯金が減っていくのです。

ということは、このままではそのうちに個人金融資産(ローンなどを除けば1000兆円ほどと言われています)では国と地方の債務をまかないきれなくなってしまいます。

伊藤氏は、国内で国債を消化できるのはあと5年が限度とおっしゃっています。もし何も手を打たずに5年経ったら、もう借金で予算をやりくりすることはできなくなるのです。

海外投資家に国債を買ってもらうという手もあります。しかし、これだけ借金があり、財政再建に踏み出さない国の国債を買ってくれる人がどれだけいるでしょうか。

おまけに、外国の国債には、安全性も高く利回りも高いものがいろいろあるのです。あえて日本国債を買う理由はないでしょう。

11/6/22追記:日経新聞によると、財務省が海外で投資家向けに日本国債を買ってくださいというイベントを開いたところ、投資家から「日本はいつ財政破綻するのか」と尋ねられたそうです。

海外投資家には何のしがらみもありませんし、やはり彼らが日本国債を買ってくれるとは私には思えません。


○金利急上昇の恐怖

そうして国内に国債の引き受け手がいなくなれば、どうなるでしょうか。少なくとも、新規に発行する国債の金利を大幅に上げるしかありません。

すると、銀行などの保有する既発国債の価格は暴落します。新規国債の方が利回りが格段によいなら、みなそちらを買うからです。

また、銀行などが「本当に国債を償還してもらえるんだろうか。今のうちに換金したほうがよいのでは」と保有する国債を売っても同じことです。

加えて、銀行には自己資本比率を一定以上に保つ義務があります。保有する既発国債の価格が金利急騰によって大幅に下がれば、銀行の破綻にもつながりかねません。

このように、長期金利が上昇し始めてしまうと、国債のパニック売りなどを招く恐れがあります。

また、金利が上がると、国の負担する国債費も増えてしまいます。今のところは年20兆円ほどですが(十分多いですが)、金利が1%上がると4.5兆円ほど増えるという試算があります。

このように、日本の財政は瀬戸際にあります。このままでは財政破綻もありうると思います。

もちろんそうなってはいけないので、少しでも早く消費税率を上げて、税収を確保し、借金に頼らない財政を実現する必要があるのです。


○消費税上げは景気を悪化させるか

さて、財政再建のためにはやはり消費税を上げざるをえない、と私も思います。問題はどうやって上げるかですが、当サイトでもご紹介している小黒一正氏は、一気に上げたほうが国民の負担は少ないとおっしゃっています。

また、世代間格差を是正した社会保障を整備して、その上で消費税の一部を社会保障の財源に充てます。

こうすることで、年金や医療などの制度が持続可能なしっかりしたものになります。すると、国民は安心できるため、これまで老後のためなどに貯蓄に回していた分を消費に回せます。

そうすれば、消費税上げによって景気を冷え込ませるという心配は不要だとおっしゃっています。

私も消費税上げは景気を悪化させると思っていたので、この論には目からウロコが落ちました。


○社会保障を整備すれば貯蓄が消費に回る

確かに年金はこれからの世代は少ない人数で高齢者を支えなければならず、若い世代は将来本当にもらえるのか、と心配する人が多いです。もっともな心配だと思います。

また、健康保険制度も医療費の増大を抑えきれず、危機的状況だそうです。

おまけに日本の財政が逼迫して、将来が本当に危ぶまれるわけですから、国民はお金持ちを除けば、安心してお金を消費に回せません。

そこで、やはり社会保障制度の抜本的見直しと、世代間格差の是正は今、行わないといけないと思います。

その上で、消費税率を上げてその財源に充てるが、それは国民が安心して暮らせるようにするためのものだ、ということを政府がしっかり説明すれば、国民も消費税を一気に上げても、そんなに混乱は起きないのではないか、と思います。

一方、伊藤さんは消費税率を徐々に上げていく方法を提唱されているようです。経済成長がプラスなら2%上げて、マイナスに成長になったら上げるのを止める、というのは一気に上げることで景気を冷え込ませるのを防ぐための工夫だと思います。

ただ、消費税を1%上げると、2.4兆円前後の税収アップになるそうですが、徐々に上げていく方式ですと、日本の新規国債発行をゼロにするまでにはかなり時間がかかってしまうのではないでしょうか。


○社会保障の予算は別枠で

ちなみに与謝野馨さんは、社会保障の予算を一般会計と別の枠にすることを提唱されていますが、これは小黒さんもおっしゃっていることで、私は賛成です。

というのは、社会保障は数十年、数百年というとても長い期間で持続させていかなければいけないものですから、単年度での予算管理には不向きだからです。

まずこの点を直さないと、社会保障制度を持続可能なものにするのは無理でしょう。


○消費税率はどれだけ上げるか

次にどれだけ税率を上げるかですが、伊藤さんは15~20%の引き上げが必要だとおっしゃっています。つまり最終的には20~25%の消費税率になるということです。

現在でも43兆円あまりの新規国債を発行していることを考えれば、やはりそれくらいにはなってしまうでしょう。もちろん国の歳出の無駄を削減することは続けていく必要がありますが。

財政破綻や財政危機によるハイパーインフレにでもなってしまえば、日本は社会のすべてが大混乱に陥り、国民の生活もめちゃめちゃになってしまうでしょう。

具体的に言えば、例えば銀行や保険会社などの破綻、金利の急上昇、物価の急上昇、株価の暴落、円の暴落(これもインフレを招きます)、公務員への賃金を払えなくなる、などです。

国際的にも日本は信認を失うでしょう。

こうした事態を避けるために、国は一刻も早い財政再建の取り組みをしなければいけないと思います。


○経済成長策

さて、一方で経済成長を促す施策も必要です。まずは今議論の的になっているFTAやTPPです。例えばFTAについては、日本の農業を破壊するという声もあるので、私も正直なところ締結すべきかどうなのかわからないのです。

ただ、例えば農業について言えば、それでは今のままを続ければよいのか、という疑問を感じます。現在農業をされている方の平均年齢は65歳くらいと聞いています。

このままでは後継者も減り、農業がさらに衰退してしまうでしょう。

やはり世界に日本の質の高い農産物を輸出するという攻めの農業を考える必要はあると思うのです。伊藤先生のおっしゃるように、競争を促さないと、他国との競争には勝てないでしょう。

伊藤先生は医療・健康の分野でもチャンスがあるとおっしゃっています。確かに中国の富裕層は今、日本に観光に訪れて家電製品や化粧品などを購入しています。

こうした人たちをターゲットに、日本の質の高い医療サービスを提供できれば、需要を増やすことができます。

混合診療については、私は詳しくないのですが、必要な医療でも保険外しが目論まれるなどの問題があれば、お金持ち以外は必要な医療も受けられなくなってしまうおそれがあります。

こうした問題を解決しないと、導入には賛成できません。
参考:混合診療の問題点


○少子化対策

次にどうやって人口を増やしていくかです。少子化によって日本では働き手がどんどん減ってしまっているからです。

小児科医の不足の改善は大いに賛成です。現在の医師不足を産んでしまった厚生労働省にはおおいに疑問を感じます。

保育所を増やすのも、そこで働く人が増えるという雇用改善の効果もあり、お母さんも安心して子どもを預けられるのですから、ぜひ行ってほしいものです。

伊藤さんのおっしゃるように、子ども手当よりももっと大事なことがあると申し上げたいです。子ども手当を支給されるとしても、保育所などが不足している現状では、子どもを産みたくても産めないでしょう。

世代間の不公平感を和らげることもとても重要だと思います。少子化によって社会保障の担い手が減れば、若い世代は自分たちが年金などをもらうときに、本当にもらえるんだろうか、と心配するのは当然です。

一方、思い切って消費税を上げて、きちんと社会保障の財源をつくる。そして社会保障も世代間の格差を是正できる仕組みにする。そうして日本の借金も年金も医療も安心だということになれば、子どもを生む人も増えるのではないでしょうか。


○消費税のインボイス、複数税率

次に消費税について。インボイスについては詳しくないので調べたところ、納税義務者である事業者がきちんと納税するようにする効果があるようです。

ただ、消費税を納める会社などにとっては、事務負担が増えます。

また、伊藤さんはコメなどの生活必需品は税率を0にすることを低減されています。これは、低所得者に配慮するためです。

私もこうした複数税率によって低所得者に配慮することは、消費税を大幅に上げる上で検討すべきだと思います。ただ、0とはかなり思い切っていますね。

また、複数税率にすると、納税側の事務負担が増えるデメリットはあります。また、どこまでが生活必需品か、という線引きも難しいです。
参考:軽減税率→NO! 税の還付→YES!


○給付付き税額控除

また、給付付き税額控除の導入も低減されています。給付付き税額控除とは、これまでの税額控除では低所得者は恩恵を受けられなかった部分の控除額が、現金として給付されるものです。
参考:「給付付き税額控除」という新しい考え方

これはよい仕組みだと思います。消費税の大きな問題である逆進性(高所得者に税負担が少なく、低所得者に負担が大きくなってしまうこと)を解消できるからです。

なお、給付付き税額控除を導入するには、その人の正確な所得などを把握する必要があります。


○税と社会保障の共通番号制度

そこで、税と社会保障の共通番号制度の導入が検討されています。先日、菅直人内閣は2015年に導入するという見通しを発表しました。方向としてはよいのですが、消費税率を上げる前提である以上、もっと早く番号制を導入できないでしょうか。

共通番号制度の導入が遅れれば、財政再建も遅れてしまうからです。

なお、税と社会保障の共通番号制度を導入すると、脱税がしにくくなる、医療費の削減につながる、役所の事務処理コストの削減になるなどのメリットがあります。

一方、デメリットとしては個人情報が一括管理されるために、漏洩の危険などが指摘されています。そのため、情報管理を徹底する仕組みは不可欠です。

政府は、情報管理のための第三者委員会の設置を考えています。


○財政再建の実現を

こうして考えると、財政を再建しつつ、経済成長も達成し、社会保障を整備するという、難しい課題が今の政権には課せられています。しかし、国を憂い国を立て直したいという気概のある政治家には、とてもやりがいのある仕事ではないでしょうか。

ぜひともその気概のある政治家の方に、本気で取り組んでいただきたいです。財政再建ができる猶予はもう少ししかありません。

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